2 of 2

 

業界のかかえる大きな問題のひとつに,収入格差の拡大 のことがあります。 これには,次の2つの理由があげられると思います。

●経済・市場データ無視の開業

まずひとつは,市場(マーケット)を無視して開業する獣 医師が多いということです。 具体的にはこういうことです。その地域にどれくらいの 飼い主数がいて、その地域の飼い主がどれくらいのお金を 動物にかけるかというようなことは、データがないので難 しいとしても,その地域の世帯数に対して動物病院が多い か少ないかは調べればすぐに分かります。 ところが、日本全体における動物病院密度(世帯数/ 動物病院数)と筆者が呼んでいる数字の格差が非常に大き いのです。約1万世帯に1件以下しか動物病院がない市区 町村もあれば,約2,000世帯に1件以上動物病院がある市 区町村もあります。その差は実に5倍以上です。世帯数以 外の条件がすべて同じだとすれば,同じ獣医師が開業した 場合に5倍以上の収入格差がつくことになります。 先日も、ある院長から相談を受けて驚きました。開業後 2年以上経つのに売上が年間600万円だというのです。し かも、その市内には売上1,000万円程度の病院が珍しくな いというのです。また、別の女性獣医師が開業相談に来ら れて、生活費はご主人の収入があるから、動物病院の薬代 と家賃その他の経費さえまかなえればよいので、現在の自 宅の近くで開業したいという話をされました。 つまり、開業は立地選定によって売上が大きく異なるの に、経済・市場データを無視して実家で開業する方や、好 きな都市で開業する方が多いということです。その結果、 開業後に経営を継続するのにも、かなり厳しい業績の動物 病院が珍しくないという状況になっています。 参考までに、筆者が開業支援した動物病院の開業後の売 上データをご紹介します。(図2)

 

 

●飼い主による動物病院の選択志向の強まり

動物病院を複数利用して、よい病院を選択する飼い主が 確実に増えています。これは、飼い主から選ばれる病院と、 選ばれない病院に分かれることを意味しています。このこ とが、病院間の収入格差の拡大につながります。 さらに、症例数が多い→勉強する→医療レベルが上 がる→さらに症例数増加→という、よい循環に恵まれ る病院と、症例数が少ない→勉強しない→医療レベル が上がらない→さらに症例数の滅少という、悪循環に 陥る病院との格差が、さらに拡大することになります。

 

 
1989年
1994年
1999年
2004年
過去5年間増加数
-
1,141
922
749
年平均増加数
-
228
184
150
年間業数予想※
-
300
300
300
年間廃業予想※
-
72
116
50

 

 

年間の動物病院の開業数は、この10年間は年間300件前 後で大きな変化はありません。 獣医科大学の卒業生に占める小動物臨床志望者が増えて いることもあり、本来は開業者が増えるはずですが、女性獣 医師の増加が開業数の増加に歯止めをかけている状況です。 逆に、廃業数は1994年までの5年間の年平均72件から 2004年までの5年間の年平均が150件と、2倍以上に増え ています。 今後の動向としては、開業数は堅調に推移し、廃業数は 増加傾向をたどるために、動物病院全体の数は年間100件 あまりの増加にとどまることが予想されます(表2)。

 

このような業界事情の中で賢明な獣医師の多くは、動物 病院マーケットを拡大することの重要性を十分に理解して いると思います。つまり、限られたマーケット、既存の患 者のシェアを単純に取り合うというのではなく、日進月歩 で進歩する動物医療の技術を新たなマーケット創出につな げることが非常に重要であるということです。 具体的な課題として次のようなことがあると思います。

1.勤務医精度が確立した動物病院の増加

動物病院では獣医師不足に陥り、規模拡大を図って動物医 療のクオリティをあげようと思ってもできない状況があり ます。 筆者は何度もアメリカの動物病院を見学していますが、 アメリカは、動物病院の建物の大きさもさることながら、 獣医師複数体制の動物病院が日本とは比較にならないぐら い多いのです。 日本は、勤務獣医師の待遇改善に対する努力を怠ってき たために、勤務獣医師の業界における労働市場が拡大しな いという結果をもたらし、このことが獣医師複数体制の病 院の数の少なさや勤務獣医師の医療レベルの停滞をもたら していると思います。つまり、業界における勤務医制度の 確立は動物医療のクオリティの向上にとって、非常に重要 な要因だと筆者は考えています。

2.病院間連携、分業システムの発展

筆者は獣医師ではありませんが、たびたび臨床の勉強会 に参加します。細かいことはもちろんわかりませんが、そ の中で重要なヒントを得ることが多いです。 たとえば、日々進歩する動物医療の変化のスピードがま すます速くなっていることを考えると、1人の獣医師がす べての専門分野の進歩についていくのは現実問題として不 可能だと思います。複数の獣医師が専門分野を分業、役割 分担するしかないのです。ことばを換えていえば動物病院 を個人プレーの運営からチームプレーの運営に変えていく ことです。チームブレーの発想を持つ院長が増えることと、 動物医療のレベルアップには深い関係があると思います。 さらに、日本に二次医療の動物病院が増えることや、そこ までいかなくても、病院間でそれぞれ得意分野を持った病 院が役割分担を図り、患者を紹介し合う、いわゆる動物病 院間連携は必要だと考えます。

3. 診断能力向上は動物病院マーケットを広げる

筆者が、アメリカ最大の動物検査センターであるVCA アンテックのクラッセン所長から聞いた、忘れられない言 葉があります。それは、「検査売上を上げることは、その 病院の医療レベルを上げることと密接な関係がある」とい うことです。これはもちろん、動物を検査漬けにするとい うこととは全く意味が違います。動物病院には動物の病気 を治したり、予防することとともに、飼い主に情報を提供 するという重要な役割があるということなのです。仮にそ れが治らない病気であっても、愛する動物の病気について の詳しい情報、最新の情報がほしいというのは、飼い主の 自然な気持ちです。 一方で、検査や診断のために飼い主にコストを負担しても らうことも重要なテーマなので、いかに飼い主を指導するか、 いわゆるクライアントエデュケーションが重要になってくる ということは多くの獣医師にとって周知の事実でしょう。

 

今回の総務庁統計局のデータをみて思うのは、我々はもっ と危機感を持つべきだということです。 人間の医療については、国をあげて医療費の削減に取り 組んでいます。それだけ人間医療のマーケットは急拡大し ているわけです。 動物においては、ドッグイヤーのスピードで高齢化が進 んでいるわけですから、今後も動物医療のマーケットが拡 大する余地は十分にあります。ただ忙しいから勉強できな いとか、勤務医制度は無理というのではなく、一歩立ち止 まって、業界の成長性の回復への確実な努力をする業界関 係者が増えることを心から願います。

 

 

経営理念 病院案内 勉強会 募集フォーム 社員インタビュー 会社案内
Q&A